【永遠の眠りを君に】
穏やかに俺の横で寝息をたてている、ひと。
今日は晴天。昼下がりの屋上はとても心地のいい風が吹き渡って、まるでここだけが切り離されて、ゆっくりと時間が流れているかのようだ。
ずっと、このまま…このままでいたい。
視線を屋上の縁から下に向ければ、クラスメイトたちが午後の授業を受けていた。
ノートをとったり、友達と喋ったり、寝ていたり。壇上の教師はひたすら何かを黒板に書いている。時折生徒に向き直って身振り手振りも交えて何かを話してる。…音がないから、面白いな。そんなことを思いつつ眺めていた。
それは、ありふれた日常。
俺たちは、ここにいる。
悪いことをしているハズだけど。
心は穏やかで、幸せに溢れてる。
けれどそれはアンタが目を覚ますまで。
覚めたら現実に戻ってしまう。
魔法のような、その眠り。
ずっとそばにいられるなら。
このまま、ずっと。
でも、笑ってる方がいい。怒ってる方がいい。
やっぱり、起きてよ。
こっちを見てよ。
その眠りを覚ます、合図はなに?
【掴んだこの手は離さない】
我が儘だって、ひとは言う。
だって、離れたくないんだから仕方ないじゃないか。
俺はこのひとと一緒にいたいんだ。
それの何が悪いの。
やっと手に入れたんだ。
見ているだけだった。
何気ない視線を感じるだけで、どきどきした。
憧れだった。
そのひとの手を、ようやく掴むことができた。
その時は奇跡のように思えた。
だから、離さない。
何があっても。
たとえ俺が壊されても。
【赤い瞳の奥】
自分では気付かなかったけど、俺の目は興奮したりすると充血してくるんだそうだ。
じゃあバレバレじゃないか。
俺が今何を思っているかとか、そういうの。
ってことは。
アンタの前じゃ、ずっと赤いのかもね。
けど、本当の心は見える?
俺の瞳の奥に隠れた、まだ誰も知らない何か、見える?
俺にもよくわからない、この感情。
楽しいも、哀しいも、怒りも、喜びも。
アンタの前じゃ、振り切れちまうんだよ。
瞳が赤くなったからって、答えはひとつじゃないんだ。
それがどれだか、俺にもわからないかも知れない。
こんなこと、初めてだから。
アンタなら、わかってくれる?
【好きで傷つけてるわけじゃない】
知らなかった。
知らないうちにアンタのこと、傷つけてたなんて。
アンタは言った。
『無意識でやってることなんだろうけど』
と。
『何をやったか、自分で気づきなさい』
と。
初めて知った。
自分の行動がひとを傷つけてるなんてこと。
故意にやることはよくある。
けど。だけど、そんなの。ない。
俺はアンタが好きなのに。
俺の何がいけなかったの?
俺はアンタが傷つくの見たくてやったんじゃないよ。
本当に、知らなかった。アンタが言うとおり、『無意識』だったんだ。
知らない、気づけないのが罪だというなら。
『無意識』の俺にはなにもできない。
ただ許しを請うだけしか。
俺、アンタに傷つけられても、我慢する。
だから、何がいけなかったのか教えて。
もう傷つけたくないよ。
【どうか、僕に安らぎを】
身体が痛い。
心が痛い。
なにもかもが、痛い。
たすけて。
アンタの手だけが、俺を救えるから。 伸ばして、その手を。
【心地よい高揚感】
相手を叩きのめす。
なんてキモチのいい瞬間だろう。
わかる?
特に、大・逆転、なんてね。
余裕で相手を倒していくのもいいんだけどさ。
調子乗らせておいてそこを一気に叩く。とか、もう最高。
強い相手ほど、ぞくぞくする。
この気持ち良さ、あのひとたちを前にして得られるかな。
考えるだけで鳥肌が立つ。
ふと横にあった鏡を見てみたら。
真っ赤に染まった瞳がこっちを見ていた。
【非道なまでの壁】
あり得ない。
初めはそう思った。
だけど、もうすぐ。
手が届く気がする。
後ろ姿が、見下ろす視線が、近くなった。
さぁ、あと少し。
【狂気に満ちた笑み】
大事なモノに対しての執着というか、そういうものへの感情は表裏一体だって柳生先輩が言っていた。
『純愛』と『狂気』。
あのひとが言うんだから、正しいんだと思う。
その境界線というのは曖昧で、ともすればぼやけてしまう、とも。
俺が試合相手をぶちのめす時と、あのひとを好きだと思う時に浮かぶ笑顔は…同じなのかも知れないな。
そう思うと、難しいけど少しわかった気がした。
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